教科のお知らせ

【イノベーティブ・シンキング】2023年度実践内容

2023年度実施の「イノベーティブ・シンキング」について、ご紹介します。

 

授業概要(イノベーティブ・シンキング)

『イノベーティブ・シンキング』とは、「大学や研究機関で研究・開発に取り組む研究者や企業で新たな価値やサービスを創造・提供する経営者・実務家らを招聘(しょうへい)し、具体的な事例を基に講義やワークショップを行う。

この科目の学習を通じて、イノベーティブなものの見方や考え方を学ぶ。」という本校独自の授業(学校設定科目)です。 本年度は、本校の2年生20名を対象に授業を実施しました。

 

授業の目標と評価

[目標]イノベーティブな視点を獲得し、既存の方法の改善にとどまらない刷新的な問題解決方法を自ら考えられるようになること。
[評価]レポートやポートフォリオにより、総合的に成績を評価する。

 

年間授業実践記録

【授業時程】土曜日 9:00〜11:00
【授業場所】社会科教室

日時 内容 講師
1 4/15 ◆innovativeについて・チームビルディング
・「innovative」について
・マシュマロタワー建設(パスタゲーム)
仲矢史雄先生(大阪教育大学)
2 4/22 ◆イノベーティブシンキングの理解・ロジカルシンキング
・イノベーションの事例探し(ダイアログ・ワーク)
・ロジカルシンキングの問題
安松健先生(大阪教育大学)
3 5/13 ◆ファシリテーション・MECE・創造的統合
・思いつかないことを思いつく
・世の中にない画期的なスマホを考える
安松健先生(大阪教育大学)
4 6/3 ◆科学的思考・仮説思考
・アダプション・プロダクト
・グループワークでの問題解決
向井大喜先生(大阪教育大学)
5 6/10 ◆科学的思考・問題解決
・問題解決学習の省察
・グループワーク
向井大喜先生(大阪教育大学)
6 7/8 ベトナム研修の事前学習 本校教員
7 7/15 ベトナム研修の事前学習 本校教員
8 8/26 ベトナム研修の成果発表会 本校教員
9 9/2 ◆外部講師講演会①
「妄想力で未来をデザインするには」
宮沢桜太朗様(慶應義塾大学・在学中・本校63期)
10 9/9 ◆グループディスカッション・ディベート
・Toulminの三角ロジック
・「グローバルな人材を育成するために必要な日本の教育改革」(ディベート)
仲矢史雄先生(大阪教育大学)
11 11/11 ◆外部講師講演会②
失敗の価値とは?
Branch 徳沢精悟様(実業家)
12 12/16 ◆外部講師講演会③
「たった一人のための商品開発」
Earthink株式会社  崎野哲史様
13 1/27 ◆外部講師講演会④
「国境なき医師団の活動とイノベーティブ・シンキング」
国境なき医師団 團野桂様(医師・卒業生)
14 2/3 ◆外部講師講演会⑤
「デザインとゲームと選択肢」
デザインひろば 鈴木暁久様(デザイナー)
15 2/17 ◆イノベーティブ・シンキングとは
・イノベーティブシンキングのまとめ
仲矢史雄先生(大阪教育大学)

 

授業の様子(イノベーティブ・シンキング)

イノベーティブ・シンキングの授業の様子をお伝えします。

 

◆オリエンテーション(第1回)

大阪教育大学の仲矢先生に、本校生向けに講義をしていただきました。  

「innovative」の日本語訳を考えるワークを行いました。

「innovative」には、リスク・柔軟性・リーダーシップ・問題解決・チームワークの5つの要素があります。

今回は最終的に「創常」に決まりました。

[イノベーティブの和訳を黒板に書き出している様子]  

 

◆イノベーティブシンキングの基礎(第2・3回)

大阪教育大学の安松先生に、講義をしていただきました。  

・イノベーティブ・シンキングの基礎

イノベーティブ・シンキングに大切な視点を教えていただきました。

身の回りにある出来事を観察することで、イノベーションの事例を発見できること。また、イノベーションを起こすと争いが起きること。矛盾・葛藤・対立・反論・否定が重要であること。このようなことを生徒たちは学びました。

・ロジカルシンキング

ロジカルシンキングの問題に取り組みました。グループで議論してグループの解答を書き、個人採点とグループ採点を行いました。そして、安松先生による問題に対する解説を聞きました。

このような問題から、ロジカルシンキングで大事である、「演繹と帰納の違い」や「逆・裏・対偶」を知り、そして「論理構造に関して言及しなければ反論にならない」ことを学びました。

・思いつかないことを思いつくためのファシリテーション、創造的統合のためのファシリテーション

ファシリテーションについて学びました。例えば、ダイアログを意識しながら、「世の中にない画期的なスマホを考える」というグループワークを行いました。

また、「スマホ×WBC」「スマホ×周囲ともっといい関係を持ちたい」「スマホ×世の中色々あるけど自分の世界を確保しておきたい」などの一見関係なさそうな者同士を組み合わせて新しい思考を行うことで、創造的統合を行うグループワークも行いました。  

 

◆イノベーティブ・シンキングの基礎(第4・5回)

大阪教育大学の向井先生に、講義をしていただきました。

科学的に物事を探索する際には、『探索⇒仮説⇒仮説検証⇒解決』という過程を辿ること、アブダクションとプロダクトという2つのイノベーティブな思考法があることを教えていただきました。

受講生は、「仮説を立てて、その仮説を実証する方法を考え、仮説の誤りに気づき、修正していくという探究の過程」をワークを通じて体験し、探究し、そしてイノベーティブな思考法について深く学びました。  

 

◆ベトナム研修について(第6〜8回)

ベトナム研修の事前準備(第6・7回)

ベトナム研修では、探究活動も行います。今回はSDGsの16番目のゴールを参加者全員の共通の探究テーマとして、「平和の概念・達成の方法は、国・民族・宗教・文化・時代を越えて違いは全く見られない」という問いを検討しました。この問いについて、より焦点を絞った課題を設定しつつ、探究活動を開始しました。

探究活動の課題に取り組む中で、生徒たちは、実際に現在ベトナムで行われている環境政策や経済政策、ベトナムの戦争の歴史など、事前調査を行いました。

また、日本の文化と附高の紹介と、日本食体験の企画をすることが決まりました。日本の文化の紹介では、日本の伝統的な文化と現代のことをスライドを用いてプレゼンを行い、折り紙などのワークショップをすることになりました。日本食体験の企画として、みたらし団子と味噌汁を作ることになりました。

 

ベトナム研修(2023年7月22日〜7月30日)

 

ベトナム研修の成果発表会(第8回)

ベトナム研修の成果発表会として1分間スピーチを実施しました。

この中で、「事前調査があったからこそできたベトナムの見方があった」、「事前調査の重要性が感じられた」と発言する生徒もいました。  

今回のベトナム研修で生徒たちは、研修前に「平和についてそれぞれ異なる仮説(や問い)」を立てていました。このような仮説について、研修参加者全員が、ベトナムに行く前と意見が変わっていることに生徒たちは気がつきました。

また、ベトナム研修で得た学びとして「多様な視点を持つこと」「自分たちの当たり前を当たり前だと思わないこと」という点が多く挙がりました。

この成果発表会を通じて、「ベトナム研修に実際に行って、現地の人と実際に触れ合ったからこそ学べたものがあった」のだと生徒たちは再認識していました。  

 

◆妄想力で未来をデザインするには【外部講師講演①】(第9回)

慶応義塾大学の宮沢桜太朗様に、本校生向けにご講演をしていただきました。

宮沢さんは、本校の卒業生(63期)で生徒と年齢が近く、生徒にとっても新鮮なお話しをたくさんしていただきました。

宮沢さんの高校時代のお話、現在行っているプロジェクトの内容のお話しなどしていただきました。

妄想をすることが今回の授業の中心です。例えば「未来のカメラを考える」というテーマについて、「カメラは手で持って写真をとるもの」という既成概念の逆として、「手で持たない」「写真を撮らない」カメラってどんなものだろう、未来に存在しているかもしれない未だ見ぬカメラを妄想でデザインし、グループごとに発表しました。

生徒たちにとって最も印象的だったことは、『なにか新しいモノを発明することは、エジソンやスティーブジョブズと同じように、「こういうものがあったらいいな」と妄想する過程で産まれる』、と教わったことでした。  

 

◆ディスカッション・ディベート(第10回)

大阪教育大学の仲矢先生に、本校生向けに講義をしていただきました。

まず、議論やディベートのスキル向上のために「Toulminの三角ロジック」を生徒たちは学びました

Toulminの三角ロジックとは、主張、根拠、論拠といった要素を明確に区別し、論理的に説得力のある議論を組み立てる方法です。

特に、『主張に対して、根拠を示す際に、「その根拠から、どうしてその主張が成立するのか」という「論拠」をしっかりと持つことで、効果的で意義のあるディベートができる』という視点を生徒たちは持ちました。

これらのことは自分たちの将来でコミュニケーションや問題解決の能力に役立つと感じていました。

そして、ディベートを行いました。題目の一つとして「グローバルな人材を育成するために必要な日本の教育改革」を取り挙げ、ディベートを行いました。  

ディベートを経験することで、異なる視点や意見に触れ、自分の立場を強化するだけでなく、他人の意見を尊重し合う姿勢も学ぶことができました。 さらに、生徒たちはチームで協力することも重要な要素だと感じていました。

ディベートの大変な面もあり、異なる意見を持つ仲間と共に議論を進め、議論の質を高めるための協力が求められることも挙げていました。

このような経験を通じて、協力とコミュニケーションのスキルも、今後のキャリアや社会生活において不可欠なものであると生徒たちは実感していました。  

 

◆失敗の価値とは?【外部講師講演②】(第11回)

BRANCHの徳沢精悟様に、本校生向けにご講演をしていただきました。

授業では、本科目のテーマの「イノベーション」について、ご本人の経験から得られたお話をしていただきました。

『世の中を変えるのは失敗しながらでも行動し続けた人』

イノベーションとは、アイディアとは似て非なるものです。大切なのは小さく動き始めることです。気を付けることは、完璧を目指すことではない。と、たくさんの大事な「気づき」を教えていただきました。

※授業の様子は、こちらに掲載しております。  

 

◆たった一人のための商品開発【外部講師講演③】(第12回)

Earthink株式会社の崎野哲史様に、本校生向けにご講演をしていただきました。

「たった一人のために商品開発をしよう」というテーマで、たった一人の設定を決めること、その人をターゲットにして、その人にあった商品を考えることの重要さを教えていただきました。授業では、玉ねぎスープ、ブリトー、野菜パフェ、野菜豆乳スムージーなどが扱われました。

生徒たちにとっては、学生のうちには携わらない未知の分野である「商品開発」の極意を学ぶことで、将来の進路を考えるきっかけにもなったという声が挙がっていました。

また、商品開発の大変な側面として、商品開発には半年から1年が必要であることを教えていただきました。「食品にも流行りがあるので流行りなども意識して考えなくてはならないこと」や「半年後、1年後に何が流行っているかを考えて開発しなくてはいけない」といった視点は、生徒たちの新たな視点となるとともに、商品開発の大変さを感じていました。

「商品開発の過程を模擬的に知ることができて面白かった、とても勉強になった」と生徒たちは振り返っていました。  

 

◆国境なき医師団の活動とイノベーティブ・シンキング【外部講師講演④】(第13回)

国境なき医師団の團野桂様に、本校生向けにご講演をしていただきました。

生徒たちにとっては、国境なき医師団とはよく耳にするものの、身近な存在ではありませんでした。

團野さんは、実際にエチオピアなどの発展途上国に派遣されており、そこで医師として活躍するだけでなく、現地の人とコミュニケーションをとりながら活動されています。

日本では身近な存在である医療サービスも発展途上国では、あまり手軽に受けることができない特別貴重なものです。この事実を知り、生徒たちは「とても自分の想像とは乖離していた状況だった」と驚いていました。  

授業のワークショップでは、「公正な医療とは何なのか」、また、「医療現場は何を求めているのか?」について生徒たちは深く考えました。

特に印象に残っていることを聞くと、「多様性の観点で、世界の文化や宗教の違いを認めることは素敵なことだが、そのことを広げるまた、押しつけることは正しいとはいえない」と振り返っていました。  

国境なき医師団の團野様のお話を聴くことができ、とても貴重な機会になりました。

 

◆デザインとゲームと選択肢【外部講師講演⑤】(第14回)

デザインひろばの鈴木暁久様に、本校生向けにご講演をしていただきました。

デザイナーをしながら、起業すること、ワークショップの企画、ゲーム開発等に出会ったご経歴について、お話しされました。

たとえ、ちがう道を歩いた人生であっても、「デザイン」という軸から他の道と接点を持ち、その分野に携わることができたこと、次につなげる力が大切だ、と教えていただきました。

「チャレンジする」ことの大切さや、「常に新しいことに挑戦する姿勢」に生徒たちは新しい学びを得ていました。

※授業の様子は、こちらに掲載しております。  

 

◆年間のまとめ(第15回)

大阪教育大学の仲矢先生に、本校生向けに講義をしていただきました。

年間の授業で学んだことを通して、「イノベーティブ・シンキングとは何か」について、まとめて、発表するワークを行いました。

生徒たちは、グループでこれまでの授業内容を振り返りつつ、イノベーティブな発想を働かせながら、アイデアをアウトプットしました。  

[模造紙にたくさんの付箋を貼り、整理・発表している様子]

 


 

生徒のふりかえりから

生徒たちの年間の授業を通した感想を抜粋して掲載します。

 

・イノベーティブシンキングの授業で得たものは?

生徒Aの回答

イノベーティブシンキングの授業を通して、自分の考え方を柔軟に変えることを学んだ。

例えば、白いくもりはどこから来るのかの授業で、くもりの正体が水であることはみんなわかっていたけれど、器の下側にある空気に含まれる水なのか、袋を通して出てきた水蒸気なのか、掘り下げて質問されるとわからないことがあった。私達の頭の中で、くもっているのは冷えて見えるようになった水だという考えで止まってしまっていたからだと思う。自分たちの仮定が間違っていたのではないかと考えて、色々な実験を繰り返してようやく結論に行き着くことが出来た。

ワークマンの開発の話を聞いたときも、最初には周りにおかしいと言われたことでも突き詰めていくことが大切だとおっしゃっていて、自分が思っているよりもたくさんの発想を出していくことが重要なのだと思った。

他にも、世界には様々な職業や人生を生きている人がいるのだということを知ることが出来た。一番心に残っているのは国境なき医師団で働く團野さんのお話を聞いたときで、国境なき医師団と聞くと、白人の人や医療従事者の方たちのイメージだったけれど、実際にはアフリカの方から参加している人や裏方として支えている人たちも大勢いると伺って、自分たちに見えているのは一面だけなのだと実感した。

一人のための商品開発の授業でも、大勢のためではなく一人のための商品開発をするなんて、私なら考えつかないし、授業で会わなければ知ることもなかったと思う。

本当に多様な職業や考え方の人がいるのだとわかった。

 

生徒Bの回答

私はイノベーティブシンキングの授業を通して、多様な視点を得ることができた。イノベーティブシンキングでは普段の授業とは異なり、自分の考えを深め、それを人に伝え、そのうえで他の人の考え方を聞くことで自分の考えをより広げることができた。特にその経験ができたのは、自分で創造する時間とディスカッションの時間だった。

  まず自分で創造する時間については、日々の生活の中で自分が触れているものを参考に新しいものを生み出した。例えば対象を絞って商品開発を行ったり、失敗の価値について考えるなど、自分のアイディアを広げる経験をすることができた。特に自分でゲームを考える時間では、与えられている条件を様々な方法で解釈することでより発想を広げることができた。これらの時間を通して自分の発想力を広げていくためには多様なものの見方が必要であると感じた。

次にディスカッションについては、自分とは全く異なる観点からの考え方を知ることができた。特に印象に残っているのは、ベトナム研修で行った現地の大学生とのディスカッションだ。授業で行っている生徒間の交流でも多様な考え方に触れることができたが、ベトナム研修では海外から日本を見ることで、自分の視野を広げることができた。

このように毎回の授業を通して自分の創造力を磨き、幅広い考え方に触れたことは、様々なものの見方を得る機会となった。

 

・イノベーティブとは何かを友達に説明する場合どう答えますか?

生徒Cの回答

イノベーティブとは常識にとらわれず創造していく新しさだと考える。

しかしこれは、今までの既知の事柄やアイデアから完全にかけ離れたものを生み出すということではない。過去に作り出されたアイデアや商品を少し違う見方で捉え、考え方を変えるだけでもそれはイノベーションとなる。大切なのは、過去の型やルール、常識や偏見に基づいて物事を考えるのではなく、既存のものからでも新たな今までにない発想をすることだと考える。よって、イノベーティブとは今までのものにとらわれない新しさ・自由さなのではないかと考える。

「コップで水を飲む時、コップの周りに水滴が付いているけれど、その水滴はどこからやってきたものなのか考えたことはある?イノベーティブって聞くと難しく感じるけれど、こういう身近な疑問や当たり前すぎて意識したことが無かったことについて向き合ってみることがイノベーティブな思考なんだよ。この思考が発展していくと、将来の自分の仕事や、世の中に役立つものの開発に繋がったりするんだよ。」

「イノベーティブシンキングでは、この思考の基礎を学んだり、実際に起業された方や世界の第一線で働いている方の話を聞いたりすることができるよ。例えば、今年度の授業では、良い話し合いとはどのようなものかを知るために、役割を分けてディスカッションをしてみたり、洗わない服を開発している方の話を聞いたり、国境なき医師団の方のお話を聞いたりしたよ。」

 


 

※本年度のイノベーティブ・シンキングの授業は以上です。

なお、2024年度以降は、本科目は開講されません。
本科目で培われた指導は総合的な探究の時間に継承します。


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