第33回(令和2年度)公開セミナー
「地球温暖化防止の切り札~植物力」 講師:奈良先端科学技術大学院大学 特任教授 工学博士 新名 惇彦先生 日時:令和2年11月21日(土)午後2時~4時 本校小講堂にて
令和2年度の公開セミナーは、新型コロナウイルス感染が拡大していることを鑑み、一回のみの開催となりました。今回は、奈良先端科学技術大学院大学の名誉教授であり、生物工学の専門家であられます新名敦彦先生をお招きし、「地球温暖化防止の切り札~植物力」についてご講演いただきました。
地球温暖化についての議論は各方面で様々になされていますが、まず現状についてわかりやすく説明いただきました。
CO₂排出量と地球の平均気温の上昇量はほぼ比例しており、温暖化は太陽活動によるものではなく、人間活動の結果であると結論されたのはわずか7年前です。
1憶3千万年かけて蓄積した地球の総石油埋蔵量のうち、20世紀のわずか100年で44%相当分を使った人間活動の結果、大気中のCO₂濃度が増し、産業革命前と2002年では、0.7度の気温上昇がみられます。実際2018年にカリフォルニア州で52℃を記録、海水温の上昇により水蒸気が多くなり、集中豪雨の原因となったり、温暖化によってこれまで生息し得なかった昆虫の大量発生により、大規模な森林の損失が起こるなど、地球環境への悪影響は計り知れません。
新名先生は、日本上空のCO₂濃度が夏に減少し、冬に増加することから、植物の光合成によるCO₂削減~植物力~を提言されています。2100年の大気中のCO₂を現状に留めるために、年間0.15憶haの森林を増大する必要があり、日本でも企業や団体による植林活動が推進されています。
また、森林を増やすだけでなく、新名先生が中心となって、植物バイオテクノロジーの知見を活かした、遺伝子組み換え樹木の創出に取り組んでこられました。酸性土壌、アルカリ性土壌、乾燥や塩性などストレスに強い植物、よりよく成長できる植物の開発は、日本の企業や大学の長年に渡る根気強い研究の成果が出ており、パルプの原料となるユーカリの成長促進や中国での砂漠緑化にも繋がっているとのことです。
加えて、木質バイオマスを利用した発電や都市緑化(木材で高層建築物を実用化)なども有効な策として提言されました。
最後に入江泰吉さんが撮影された薬師寺の画像をもとに、これを作られた当時の人々は100年200年先の未来を見据えていたのではないだろうか、今の人にそのような思いがどれだけあるのだろうか、と問題提起されたことが深く印象に残りました。また、講演後の質疑応答では附高生からの質問もあり、率直かつ丁寧にお答えくださいました。
新型コロナウイルスの影響で、参加人数を限定し、事前の感染対策として開催場所の消毒、換気を行い、また参加者の方々にもマスクの着用や手指の消毒等、ご理解とご協力を得ながらの開催となりました。最後にこのような状況の下、講演を引き受けてくださいました新名先生、ご協力いただきました参加者の方に厚く御礼申し上げます。